初心者〜上級者におすすめのZwiftワークアウト「The Wringer」。約44分で30秒×超高強度(205%FTP)を反復し、レストが1本ごとに5秒ずつ短くなる“追い込み特化”の構成です。短時間でVO₂Max刺激と踏み直し力を同時に鍛えられる一方、強度は非常に高く、正しい理解と実施手順が欠かせません。本記事では、構成・効果・理論・実践法を詳しく解説します。

The Wringerの基本構成と時間配分
ワークアウト概要
- 所要時間:43分45秒
- メイン強度:205%FTP × 30秒(反復)
- レスト:50%FTP、各本ごとに5秒ずつ短縮
- ストレスポイント:87
- ゾーン目安:Z6滞在 約6分、Z1主体(高密度の負荷構成)
全体の流れ
- ウォームアップ:約8分(30〜100%FTPのランプアップ)
- メインセット:
30秒@205%FTP → レスト@50%FTP(2分40秒)
30秒@205%FTP → レスト@50%FTP(2分35秒)
…以降、レストを1本ごとに5秒ずつ短縮し、最終的に1分50秒まで詰める。 - クールダウン:約5分(70〜30%FTPへ下げながら終了)
この回復時間の短縮が大きな特徴です。後半に向かうほど心拍数・呼吸・脚の張りが回復し切らず、酸素負債が累積していきます。
The Wringerの狙いと効果
鍛えられる主な能力
- VO₂Max:最大酸素摂取能力の強化
- 無酸素容量:高出力を支える糖解能と緩衝能力
- 回復力:短時間で心拍と筋疲労を整えるスキル
- 踏み直し力:アタック後にもペダリングを維持する筋持久
公式記載には「30秒エフォート+短い回復でVO₂パワーを高める」とあります(VO₂=最大酸素摂取量)。ただし、205%FTPは明らかに無酸素域の出力です。
実は、この効果にはレストの強度が大きく関係しています。設定を誤ると、VO₂Max刺激ではなく、見た目通りの無酸素領域を鍛えるワークアウトになります。
つまり、レストの強度次第で「VO₂Maxを高めるトレーニング」と「無酸素能力を鍛えるトレーニング」のどちらにも応用できるのが、The Wringerの特徴です。
なぜ「VO₂Max刺激」になるのか
各30秒は無酸素域(約205%FTP)での全力ですが、短いレストを挟んで反復する設計により、体は次第に酸素を最大近くまで使う状態(高VO₂)に引き上げられます。
① VO₂応答の「立ち上がり遅れ」:最初は無酸素優位でもVO₂は上がっていく
全力で動き始めても、呼吸・心拍・血流が追いつくまでにはタイムラグがあり、最初の数十秒は無酸素的エネルギーが主役です。つまり1本の30秒だけを切り取ると「無酸素的」に見えますが、実際にはその最中にもVO₂ が遅れて立ち上がり続けるため、セットの進行とともに酸素利用の割合はじわじわ増えます。
② 回復短縮→酸素需要の「累積」:不完全回復で高VO₂状態を維持する
レストは短く、しかも徐々に短縮されるため、心拍や呼吸が落ち切る前に次の全力区間が始まります。すると体内では「もっと酸素が必要だ」というシグナルが途切れず積み重なり、VO₂は下がり切らずに次の上昇へ。こうして高VO₂状態を維持する時間が長くなり、最終的にVO₂Maxそのものの適応を引き出します。後半は無酸素だけでは賄い切れず、有酸素代謝の寄与が増えるため、強度は無酸素でも有酸素能力が強制的に追い込まれるのが特徴です。
「無酸素で始めてVO₂を押し上げ、短いレストで下げさせず、反復で高VO₂を維持する」──この仕組みでThe WringerはVO₂Max刺激を生みます。
実践のコツと注意点
初心者・中級者向けの進め方
- 初回は180〜190%FTPに設定してOK。完走を最優先に。
- ウォームアップは8分以上、ケイデンス100rpm前後で準備。
- レスト中も止まらず50%FTPでペダリング継続。
- 翌日はリカバリー走または完全休養にする。
レスト中も止まらず50%FTPでペダリング継続する理由
レストは「完全休息」ではなく、軽い有酸素運動として回すことで、次の全力区間に備える時間になります。とくにThe Wringerではレストが徐々に短くなるため、止まらず回し続けることで以下の効果が得られます。
- 血流維持と代謝産物のクリアランス:軽い出力で脚を回すと血流が保たれ、乳酸などの代謝産物の再利用・除去が進み、次の30秒に備えやすくなる。
- VO₂ を落とし過ぎない:完全に止まると呼吸・心拍が下がり、再び上げ直すコストが増える。50%FTP前後で回すと高めのVO₂状態を維持しやすい。
- ケイデンスと神経筋リズムの保持:回し続けることでペダリングのテンポが途切れず、再加速時の“踏み直し”がスムーズになる。
- 筋硬直の予防:完全停止は筋のこわばりを招きやすい。軽い回転で関節可動域と筋温を保つ。
- メンタルの再集中:止まらないことで「練習の流れ」を切らず、次の本数に向けた集中を保てる。
レスト強度の目安(初心者〜上級者)
- 初心者:40〜45%FTPでもOK(完走を最優先。息を整える)
- 中級者:45〜50%FTP(VO₂を下げ過ぎず回復も確保)
- 上級者:50〜55%FTP(心拍を高めに維持して刺激最大化)
実践のコツ
- ケイデンス:回復中は90〜100rpmを目安に「軽く速く回す」。
- 呼吸:吸いすぎず、しっかり吐くことを意識して呼吸を落ち着ける。
- ギア選択:軽めギアでトルクを落とし、脚の張りを抜く。
- ERG使用時:レスト開始で一段軽くして回転を優先(フリーズ回避)。
下げてもよいサイン/下げ方
- サイン:めまい・吐き気、脚の痙攣前兆、心拍が落ちず呼吸困難感が強い。
- 対処:一時的に40〜45%FTPへ下げ、呼吸が整ったら45〜50%へ戻す。
レストで止まらず50%FTP前後で回すのは、回復しながらVO₂を落とし過ぎないため。ただし完走を優先する日は40〜45%FTPまで下げても構いません。
上級者が意識すべきポイント
- 後半3本を高トルクで踏み切るなど、神経筋刺激を追加。
- ERGモードOFFで手動変速にすると、実戦的な“踏み直し”練習にもなる。
- 「回復時ケイデンスを上げる」ことでより内的負荷を上げる調整も可能。
The Wringerの応用・目的別の使い方
The Wringerは、設定を少し変えるだけで異なるトレーニング効果を得られるワークアウトです。強度やレストの取り方を調整することで、「VO₂Maxを高める練習」にも、「無酸素領域の爆発力を鍛える練習」にもなります。ここでは、特に無酸素領域を鍛える場合の設定方法を解説します。
無酸素領域を鍛える場合のレスト設定
無酸素能力を強化したいときは、レスト中のパワーを少し下げて脚の回復を優先するのが効果的です。The Wringerのような30秒全力インターバルでは、1本ごとに筋肉の中のATPやクレアチンリン酸が消耗します。これをしっかり再合成させるためには、心拍を落ち着かせてエネルギーを補充する時間が必要になります。
レスト強度と効果の違い
| レスト強度 | 狙い・効果 | 適した目的 |
|---|---|---|
| 50〜55%FTP | VO₂Max刺激が強い。呼吸・心拍を落とさない。 | 心肺強化(VO₂Max向上) |
| 40〜45%FTP | 有酸素と無酸素をバランスよく刺激。中間的。 | 汎用的な持久系インターバル |
| 30〜35%FTP | 完全回復型。ATP-PC系・解糖系を再充電。 | 無酸素能力向上(短時間高出力の持続) |
実践の目安
- 無酸素トレーニング目的:レストは30〜40%FTPでOK。脚を休ませて再び100%全力を出す。
- VO₂Max目的:レストは45〜50%FTPでキープ。心拍を下げすぎず高VO₂を維持。
- ミックス目的:40〜45%FTPで中間を狙う。
レストの強度=鍛えたいエネルギーシステムの選択です。爆発的な出力や短時間高強度を維持する力を伸ばしたい場合は、レストをやや低めに設定して「毎回100%の全力を出し切る」ことを最優先にしましょう。
実戦での強みと限界
レース中に「205%FTP×30秒」を何本も行うことは稀ですが、この構成で鍛えられるのはアタック直後の踏み直しやレース終盤の粘りです。つまり、直接再現型ではないが、実戦対応力を底上げするタイプのトレーニングです。
- 全力スプリント(10〜15秒):神経筋パワーや立ち上がり速度は、The Wringerの主対象外。30秒全力は無酸素容量を鍛えますが、瞬間最大出力やギア加速の技術はスプリント専用ドリル(例:6〜10秒×完全回復)で補うのが有効です。
- 長時間登坂(10分以上):閾値〜VO₂持久の配分管理が鍵のため、The Wringer単独では直接的効果は薄い。SST(88〜94%FTP)や閾値インターバル(95〜100%FTP)、VO₂持久(110〜120%FTP・3〜5分)を併用して登坂持久力を鍛えるのが近道です。
The Wringerは「限界域からの踏み直し」や高VO₂状態での粘りに強みがある一方、瞬発スプリントと長時間の一定出力は別メニューで補完するのが最適です。
継続して実践した場合の成果例
- 5分パワーで+10〜20Wの向上
- FTPで+3〜5%の改善
- 高心拍での耐性アップ、息切れしにくくなる体感
継続は週1回、3〜4週間を目安に。疲労を溜めすぎず、翌日は回復走で調整するのが理想です。
The Wringerが向いている人・向いていない人
向いている人
- VO₂Maxや瞬発力を伸ばしたい人
- 短時間で質の高いトレーニングをしたい人
- レース中のアタックや踏み直しで強くなりたい人
向いていない人
- FTP設定が安定していない完全初心者
- 慢性疲労や睡眠不足がある人
- 高強度を週2回以上実施している人(過負荷リスク)
他ワークアウトとの比較
| ワークアウト | 強度 | 目的 | タイプ |
|---|---|---|---|
| The Wringer | 205%FTP ×30秒 | VO₂刺激+無酸素容量+回復力 | 爆発型・限界耐性 |
| The Gorby | 110%FTP ×5分 | VO₂持久・閾上維持 | 持久型・長時間高負荷 |
| The McCarthy Special | 100〜125%FTP | 閾値+安定持久力 | 安定型・レース耐性 |
まとめ
The Wringerは「限界からの踏み直し力」を磨く万能インターバル
30秒×205%FTPという極限の無酸素負荷を用いながら、短いレストによってVO₂Maxを高めるというユニークな構造を持つワークアウトです。高強度すぎるように見えても、レストの設定次第で「有酸素的な心肺強化」にも、「無酸素的な爆発力トレーニング」にも応用できます。
実際のレースでは、特に限界状態からの踏み直しや高心拍下での再加速といった場面で効果を発揮します。呼吸が苦しい中でも粘る力、レッドゾーンでの持続力を伸ばすには理想的なメニューです。一方で、全力スプリント(10〜15秒)や長時間登坂(10分以上)のような場面では直接的な効果は薄く、スプリント練習や閾値トレーニングなどの補完が必要です。
継続的に実践することで、心肺の限界耐性・脚の回復力・メンタルの集中持続がすべて向上します。レース終盤で「もう踏めない」と感じたその先でも力を出し切るための、“限界突破系ワークアウト”として非常に優れています。
The Wringerは、VO₂Maxと無酸素能力の“橋渡し”を行う万能な高強度メニューです。目的に応じてレスト強度を調整し、あなたの弱点を補うトレーニングとして取り入れてみてください。
ナイスリンガー
参考・出典
ワークアウト構成および画像の一部は、What’s on Zwift? – The Wringer の情報を引用しています。
参考文献
- Gastin, P. B. (2001). Energy system interaction and relative contribution during maximal exercise. Sports Medicine, 31(10), 725–741.
- Poole, D. C. & Gaesser, G. A. (1994). VO₂ slow component: physiological and functional significance. Medicine & Science in Sports & Exercise, 26(11), 1354–1358.
- Billat, V. L. et al. (2000). Intermittent runs at the velocity associated with VO₂max: Aerobic and anaerobic contributions. Medicine & Science in Sports & Exercise, 32(6), 1087–1093.

