ロードバイクのトレーニングで最も基礎となるのが、Z2(ゾーン2)トレーニングです。一般的にはL2やLSD(ロング・スロー・ディスタンス)とも呼ばれ、有酸素持久力を高めるベーストレーニングとして知られています。パフォーマンスの土台をつくり、長期的なFTP向上を支える最も重要な領域です。本記事では、Z2走の効果と生理学的メカニズム、そして効果的な実践法を科学的に解説します。
Z2走とは何か
Z2走はFTP比で約55~75%、または最大心拍数の65~75%を目安とする低強度の持続走です。主に有酸素系(脂質代謝)を動員し、筋内のミトコンドリアや毛細血管の適応を促します。鍵は低強度×長時間。強度が低いほど脂質代謝の比率が高まり、持続時間を確保するほど有酸素基盤の適応が積み上がります。
生理学的効果──なぜ“効く”のか
毛細血管の増加と酸素供給の最適化
継続的なZ2走は毛細血管密度を高め、酸素と栄養の供給効率を改善します。同じ出力でも心拍が安定しやすくなり、長時間の一定ペース維持が容易になります。
ミトコンドリア適応と代謝効率の向上
ミトコンドリアの生合成(数と機能の向上)が進み、同一強度での代謝コストが低下します。これにより、長時間の疲労耐性が上がり、レース後半の落ち込みを抑えます。
ミトコンドリアについては、こちらの記事に分かりやすくまとめています↓
脂質代謝の促進と糖節約
Z2走では脂質利用の比率が高まり、筋グリコーゲンの消耗を抑制。ロングライドやヒルクライム終盤での失速リスクを下げます。
心拍ドリフト(デカップリング)の改善
長時間で心拍がじわじわ上がる現象は、有酸素基盤や体温調節の未発達のサインです。Z2トレーニングを積み重ねることで心拍の安定性が高まり、一定ペース運用がしやすくなります。
Z2でFTPは上がるのか?
結論:上がります(ただし間接的に、そして時間をかけて)。
FTPは、単なる筋力ではなく有酸素的に高い出力を維持できる代謝基盤に依存します。Z2はまさにこの基盤(ミトコンドリア密度・毛細血管・脂質代謝)を底上げし、同じSSTやVO₂Maxの練習でも“伸びやすい身体”に作り替えます。目安としては8~12週間の継続で代謝系の指標に改善が見え始め、その後にSSTやVO₂Maxを重ねるとFTPの上昇として表れやすくなります。
メカニズム: 有酸素エネルギーの効率が高まることで、同じパワーでも消費エネルギーが少なく済み、より長く高出力を維持できるようになります。結果として、FTPの基礎が底上げされます。
戦略: Z2で伸び代を作り、SST/VO₂Maxでパフォーマンスとして表面化させる。
Z2が“楽になる”理由と代謝の変化
Z2トレーニングを1時間ほど続けていると、「最初より楽に感じてきた」と思うことはありませんか?これはトレーニング効果が出ている証拠です。Z2走の中盤から後半にかけて、身体が脂質代謝中心の“安定ゾーン”へと切り替わり、エネルギー効率が高まるためです。
代謝のスイッチが安定する
Z2の初期はまだ糖代謝が優位ですが、20~40分ほどで脂質代謝が活発になり、ミトコンドリアの働きが安定してきます。これにより、同じ出力でも心拍数が下がり、脚の張りが軽減してきます。呼吸が深く整い、「脚が軽くなる」感覚はまさにこの生理的変化の現れです。
心拍ドリフトで“効いているか”を確認する
長時間Z2を維持したとき、同じ出力でも心拍数が安定しているかどうかが、有酸素システムの成熟度を示します。走行データを振り返り、開始30分と終了時の平均心拍を比較してみましょう。出力が一定のまま心拍がほぼ変わらない、または後半に低下している場合は、代謝効率が高まりZ2がしっかり“効いている”状態です。
逆に、時間の経過とともに心拍が大きく上昇している場合(心拍ドリフトが大きい)は、まだ持久的な適応が進んでいない、もしくは疲労・脱水・暑熱による影響が考えられます。
ダイエットへの副次的効果
Z2走では脂質を主なエネルギー源として利用するため、体脂肪燃焼の促進にもつながります。強度が低いためホルモンバランスを崩しにくく、無理のない脂肪代謝活性化が期待できます。ダイエット効果や栄養戦略については、別記事で詳しく解説します。
トレーニング設計と実践
持続時間・頻度の目安
1回:60~180分(習慣化しやすい長さから)
頻度:週3~5回(他の強度とのバランスで調整)
負荷管理:TSSやCTLの推移を見ながら、週の総Z2時間を増減。
指標:出力・心拍・体感
出力:FTPの55~75%を安定維持
心拍:最大心拍の65~75%目安(会話が可能な範囲)
RPE:10段階で3~4程度
Zwiftでの実践
ERGモードで一定出力を保つ、またはロボペーサーで一定ペースを刻むと代謝的一貫性を確保できます。
トレーナー難易度を0にし、単独で走行するのも出力を一定に保ちやすくおすすめです。
週の組み立て(例)
月:Z2 90分
火:SST(2×20分)
水:Z2 60分
木:VO₂Max(短時間・高品質)
土:ロングZ2 150~180分
日:レース or テンポ/SST
関連:高強度直後にZ2を入れる応用
高強度セッション後に短めのZ2を追加して、循環促進や代謝的仕上げを狙う方法もあります。詳しくは以下の記事で解説しています。
まとめ
Z2走は短期間で劇的な数字を生む練習ではありませんが、ミトコンドリア・毛細血管・脂質代謝といった有酸素の基盤を底上げし、SSTやVO₂Maxの効き方を変える“伸び代づくり”の投資です。長期的な積み上げでFTPを押し上げる下地が確実に整います。


